近年、葬儀業界に新規参入する企業が増加傾向です。葬儀業界に進出したものの、集客が思うように進まず頭を悩ませている担当者も多いでしょう。
集客にあたり把握すべき葬儀市場の動向・葬儀社の課題
葬儀が小規模化している
近年、葬儀の小規模化が進んでいます。かつては親族以外も多く参列する「一般葬」が主流でしたが、少子高齢化や核家族化、単身世帯の増加、家計の節約志向といった社会的背景により、家族やごく近しい身内だけで見送るケースが増えています。
例えば、内閣府「高齢社会白書(令和7年版)」では「高齢化率は29.3%」と記載されており、高齢単身世帯や高齢夫婦のみの世帯は今後も増加が予測されています。また、厚生労働省「我が国の人口について」では「単身世帯、高齢者単身世帯ともに、今後とも増加が予想」と述べられています。このような世帯構造の変化が、参列者数の減少や葬儀の小規模化を後押ししています。
こうした小規模化を反映し、実際の葬儀形態も多様化しています。たとえば下記のような形式が広まっています。
- 家族葬
- 一日葬
- 直葬
- 樹木葬
- 海洋散骨
価格競争が激化している
近年、異業種から葬儀業界に新規参入する企業が増加しており、価格競争は激化傾向です。背景として、高齢化社会の影響や葬儀業界の参入障壁の低さが挙げられます。葬儀業界は、開業にあたり、特別な資格や許可などが不要で、設備投資、従業員の資格取得などの初期費用も掛かりません。
自社で葬儀場を持たず、集客・葬儀社への紹介を行う葬儀仲介事業者も増加傾向です。大手企業が葬儀業界に参入することで、更なる葬儀費用の低価格化が予測されます。いかに競合他社との差別化が図れるかが重要になるでしょう。
終活への関心・ニーズの多様化が進んでいる
少子高齢化が進むなかで、終活への関心が高まっています。終活は、いまや高齢者のみの話題ではありません。中高年など、早期から終活の準備を進める人が増加傾向です。
あわせて、葬儀に対する価値観やニーズも多様化しています。一日葬や直葬、海洋散骨、樹木葬、生前葬など、さまざまな葬儀の方法から自分らしい葬儀を行いたいと考える人も増加しています。
集客のために押さえておきたい葬儀社の経営戦略
競合が多い葬儀業界において、安定的に集客を実現するには、戦略的な経営の視点が欠かせません。ここでは、経営学者マイケル・E・ポーターが提唱した基本戦略を踏まえ、葬儀社に応用できる考え方を整理します。
特定の顧客層や市場に集中する「集中戦略」
「集中戦略」は、ポーターの3つの基本戦略(コストリーダーシップ・差別化・集中)のひとつで、自社の強みを活かせる特定の市場や顧客層に的を絞り、経営資源を集中的に投入する方法です。
葬儀社における具体例としては、次のようなケースが考えられます。
- 家族葬や直葬など小規模葬儀に特化する
- 高齢者層や地域密着の顧客に焦点を当てる
- 宗派や地域慣習に特化したサービスを提供する
このように対象を絞ることで、大手や広範囲をカバーする業者とは異なる強みを発揮し、限られた市場で優位に立つことが可能になります。「どの市場を選び、どのように優位性を築くか」という戦略的意思決定が重要です。
選ばれる葬儀社であるための「差別化戦略」
一方で、特定市場に集中するだけでは不十分であり、競合他社との差別化も欠かせません。差別化戦略は、集中戦略と同じくポーターの基本戦略のひとつで、他社にない独自の価値を打ち出すことで競争優位を確立するアプローチです。
葬儀社の場合、以下のような差別化要素が考えられます。
- 自社斎場の保有や利便性の高さ
- 歴史や伝統といった信頼感
- ペット同伴可能などユニークな付加価値
- 最新設備や環境配慮といった取り組み
このような独自性を明確に示すことで、「選ばれる理由」を顧客に伝えることができます。
明確な費用・プランの提示
さらに、顧客が安心して依頼できる環境を整えることも重要です。葬儀は短期間で多くの判断を迫られるため、費用やプランをわかりやすく提示することが信頼獲得につながります。ホームページや広告媒体で料金体系やサービス内容を明示し、不安を軽減することで、顧客から選ばれる確率を高められます。
葬儀社の集客方法【8選】
ホームページ・SEO対策
自社ホームページの作成あるいは、リニューアルを進めましょう。多くの人が、インターネットを利用して葬儀社を探します。自社ホームページは、葬儀社の顔となるため、顧客目線にたったデザインやコンテンツを充実させることが重要です。例として、以下が挙げられます。
- サービス内容や費用を表示する
- 内容を定期的に更新する
- スマートフォンに対応する
検索上位に表示されるよう、SEO対策もあわせて進めましょう。
Web広告の出稿
Web広告の出稿は、集客するうえで有効な手段の1つです。例として、リスティング広告やInstagram、X(旧Twitter)、FacebookなどのSNS広告が挙げられます。
自社のターゲットに合わせて、広告手段を決めましょう。なお、広告出稿時は費用が掛かります。運用において効果測定を行い、目標達成に寄与しているかを判断しましょう。
Googleビジネスプロフィール(旧Googleマイビジネス)への登録
Googleビジネスプロフィールに登録することで、Google検索やGoogleマップで自社の情報が表示されるようになります。Googleビジネスプロフィールは、無料で登録ができます。近隣、アクセスのしやすさなど、エリアを絞り葬儀場を検索する人も多いため、登録しておきましょう。
ポータルサイトへの掲載
葬儀社のポータルサイトに自社を掲載することで、集客につなげる方法もあります。知名度が高いポータルサイトは集客力があるため、掲載することで依頼に結びつく可能性があります。
ポータルサイトを利用すると、SEO対策を自社で行う必要がありません。ただし、競合他社も多く掲載されているため、いかに差別化を図るかが重要です。
SNSの活用
Instagram、X(旧Twitter)、FacebookなどのSNSを活用し、顧客に有益な情報を発信することで集客につなげられます。ホームページとあわせて活用しましょう。SNSでの発信は、自社の認知度をあげるうえで有効な手段です。最新情報、お得情報などを継続して発信することが重要です。
アプリの活用
アプリを活用して集客する方法もあります。葬儀社のなかには、互助会や結婚式場の運営を行う会社もあり、自社専用アプリを作り、会員向けに互助会や結婚式などの情報を配信している事例もあります。アプリを活用することで、顧客との関係強化につながります。
セミナー・相談会の開催
セミナーや相談会に訪れた見込み顧客にアプローチして、集客につなげる方法も有効です。セミナーや相談会を開催することで、集客とあわせて、葬儀に対する要望や悩みのヒアリングもできます。
遺産・相続に関するセミナー、葬儀準備に関する相談会などさまざまなものがあり、近年は、終活に関するセミナーも増加傾向です。
チラシ・ポスティング
チラシは、潜在層に対するアプローチとして有効です。葬儀が必要になった際に、自社に依頼してもらえるよう、記載内容を工夫しましょう。チラシをポスティングするエリアをしぼり、該当地域や住民の特性に応じて制作することが重要です。
葬儀社の広告でNGな表現・注意点は?
誤認を招かない表現にする
近年、葬儀サービスの表示に関して措置命令や課徴金納付命令が公表されています。表示の適法性には十分な配慮が必要です。
- 他社より安い:比較広告は「事実の客観的実証」「正確な引用」「公正な比較方法」などの要件を満たす必要があります。根拠データや条件(調査範囲・時点等)を示せない場合、不当表示となるおそれがあります。
- 追加料金は不要:実際に式場使用料・安置料・供花等の追加費用が発生し得るのに「不要」と表示するのは有利誤認に当たり得ます。表示する場合は、発生条件や除外費目を具体的に明記し、料金の掲載場所も容易に確認できるようにしましょう。
追加料金が発生する場合は、料金体系を明確にし、追加料金がかかる条件について記載する必要があります。また、料金がどこに書いてあるかも明確にしておきましょう。
葬儀社・冠婚葬祭業の課題をデジタル化で解決する
葬儀社・冠婚葬祭業は、他の業界に比べ、DX(デジタルトランスフォーメーション)が遅れているといわれてきました。デジタル化を進め、葬儀社・冠婚葬祭業が抱える課題を解決しましょう。
アプリ導入により情報配信・顧客サービスの強化を図った事例
株式会社レクスト関西様が、アプリを導入した事例です。既存会員へのPR不足により、優待割引の利用率が低いことが課題として挙げられていました。顧客に有益な情報をアプリで配信することで、会員数の増加を図りました。アプリ機能には、以下のものがあります。
- 優待店舗情報の配信・検索(提携店舗の利用機会を増やす狙い)
- ニュース機能で各式場の最新情報やイベントをリアルタイム配信
- スタンプ/ランクアップ機能(イベント来場でスタンプ付与→ランクアップに活用)
- 新規会員登録/ログインがアプリから可能
- アプリ会員証提示で各種サービスを利用。
必要な情報をタイムリーに届け、特典を使ってもらう導線をアプリで常設化することで、既存会員の活性化と次世代(子・孫世代)への接点拡大をねらう取り組みです。

まとめ
葬儀社が集客する方法として、自社ホームページ、SNSの活用などさまざまな方法が挙げられます。いずれの手段でも基本料金やオプション費用をわかりやすく提示し、顧客の不安を和らげることが重要です。
ただし、景品表示法違反になる可能性がある表記は控えなければなりません。集客の1つとして、アプリを導入することで、顧客関係構築の強化に成功した事例も紹介しました。